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ホーム > WOOFWOOFマガジン > とぶ(tobu) > From England  強行されたキツネ狩り禁止令 ハウンド犬たちの新しい道

スカーレット・レッドのコスチュームに身を包んだ馬。騎乗したハントマンが「タリー・ホー」と合図を出す。
馬上からラッパが響く。何十頭ものハウンド犬たちは太いよく通る声で一斉に吠え出し、先頭をきって走り出す――英国貴族や名士の社交スポーツでもある有名なキツネ狩りだ。

昨年2月、300年続いたこの英国の伝統にピリオドが打たれた。上下両院合わせて700時間にわたる論議紛糾の末、流血騒ぎにまで至ったキツネ狩り支持派による10万人のデモにもかかわらず、ブレア首相はイングランド、およびウェールズにおける犬による狩猟禁止令を強行可決した。

この禁止法によって、狩猟に従事している人を含め約8000人が失業の危機に直面。全国に約300あるというハウンド犬の犬舎の犬たちも、失業を迫られる事態になるところだ。

何しろ、ハウンド犬は家庭犬として飼われたことがない。純粋なる猟犬としてずっと犬舎暮らし。室内で共に生活ができるようしつけを受けたこともないうえ、狩猟犬としてのあのスタミナの持ち主だ。彼らを家庭犬として飼いきれる人がいるのか疑問だ。パック(群れ)で住んでいるだけに元気で人懐っこいが、一筋縄ではいかない犬たちである。

禁止令成立から1年。意外にも、ハウンド犬の状況は以前と変わりがないという。つまりパックを所有しているハントはキツネ狩りの再開を信じ、一頭も手放さずに犬舎を維持しているのだ。イギリスの中部レスターシャーにあるビーヴァー城のビーヴァー・ハントを訪れると、フォックスハウンドたちは以前の通りにパックになって犬舎住まいを続けていた。ハントマンに聞くと、このままパックを将来も維持してゆく意向だそうだ。

「僕たちはいずれ、キツネ狩りは再開される、って信じているんだ」

 キツネ狩りは単なる上流階級者の道楽ではない。カントリーサイドに住む農民を含め、たくさんの雇用とレジャーを作り出している、一つの文化である。この文化は絶対につぶされることはなく、今の状態は一時的なものにすぎない。それに現法律では、狩りに犬の使用は禁止するが、銃はOK。結局いなくなるキツネの数は今までと変わらない。こんな法律はいずれ覆される、というのがキツネ狩り支持派の大多数のスタンスだ。

「ブリーディングも続けている。そりゃ、前ほど多くの子犬をとることはないが、フォックスハウンドという犬種を絶やしてはいけないだろう」

犬種作りは、ヨーロッパの狩猟文化とともにある。狩猟を楽しむ貴族たちが、よりその目的にふさわしく、健全な犬を求めて、犬の交配を研究してきた。イギリスのハウンド犬血統登録の歴史は200年前にもさかのぼり、これほど古くから血統が管理されている犬種は世界に他にいない。サラブレッドの血統登録よりもまだ古い。馬と同様、この由緒ある血統伝統を絶やしてはいけない、という思いもイギリス人にあるのだ。

ハウンド犬の血統登録をおこなうマスター・オブ・フォックスハウンド協会も、各ハントにフォックスハウンドのブリーディングを決して止めることのないよう、血統の存続を促している。

キツネ狩りファンにとっては、馬に乗って、大勢の仲間とハウンドの働きを眺めることと、フィールドをギャロップで走りぬけたり、柵を犬とともに飛び越えたりすること。これぞ醍醐味なのだ。

それなら、狩猟ではなく、ハウンド犬と走るだけというのはどうだろう? そんなアイデアをもとに、今イギリスでは新しいスポーツが台頭し始めている。

ドラッグ・ハンティングというものだ。あらかじめ、キツネのにおいを人工的にフィールドへばらまき、それをハウンドのパックに追わせる。そのあとを騎乗したハントマンやギャラリーがついてゆく。

ちなみにドラッグというのは「ひきずる」という意味だ。要はシミュレーションなのだが、200年前とは環境も社会も異なる今、猟犬として育てられた犬たちに、能力を発揮させ、ストレスを感じさせないような場をつくることこそ、知恵を持つ人間の役目だろう。

ここに新しく道を見出したハント及びハウンド・パックが、今イギリスにどんどん増えつつあるそうだ。ハウンド犬存続の希望の光でもある。

動物ライター、翻訳家、生物学修士。学習院大学卒業後、オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物学科を卒業。現在スウェーデンで犬、猫、馬たちと暮らしながら、動物行動学やトレーニングについて日本やヨーロッパで執筆を続ける
CLAゲーム・フェアで
禁止令によって路頭に迷う
ハウンドのために
チャリティをおこなう愛好家たち
ビーヴァー城の
ビーヴァー・ハントの犬たち。
パックになって
のんびり昼寝をしていた