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ホーム > WOOFWOOFマガジン > とぶ(tobu) > From Europe 水難救助をする頼もしきジェントル・ジャイアンツたち


動物ライター、翻訳家、生物学修士。学習院大学卒業後、オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物学科を卒業。現在スウェーデンで犬、猫、馬たちと暮らしながら、動物行動学やトレーニングについて日本やヨーロッパで執筆を続ける

 

 湖で女の子が溺れかけている…!
のんびりと夏の日を湖岸で愛犬と過ごしていたスウェーデン在住のアンネリ・オーロフさんがとっさに考えたのは、愛犬を水に送り出すことだった。
「私は泳ぎが得意じゃないので、とても助けることはできない。ルフサンならもしかして助けられるかもと…」
 アンネリさんの愛犬、ルフサンはニューファンドランドという犬種。カナダ東海岸、ニューファンドランド半島沿岸で漁師とともに暮らすことで培われてきたこの犬種は、生まれつき水難救助への才能と情熱が備わっていることで有名だ。
「ルフサンは、もう何をすべきか分かっていました。水に進むと、まっすぐに女の子の方へ向かって泳ぎ出したのです」
 溺れかけていた少女はやってきたルフサンの体につかまった。そして、アンネリさんはいつものように、ルフサンに呼び戻しの号令を出した。ゆうゆうと自信たっぷりに、ニューファンドランドらしく湖岸に向かって泳ぐルフサン。女の子は無事救出されたのだ!
 ルフサンは一度も水難救助犬としての訓練を受けたことがない。しかしニューファンドランドの水難救助の手柄話については、枚挙にいとまがない。島に流刑されたナポレオンが、沿岸で溺れたときに、ニューファンドランドに助けてもらったという話もある。

 

 ヨーロッパとアメリカでは、このようなニューファンドランドの犬種としての素晴らしい才能を残すために、水難救助競技会(ウォーター・トライアル)というアクティビティを行っている。これは訓練士のため、とかそういう特別なものではなく、ニューファンドランドを飼っていてトレーニングに興味がある人なら誰でも参加できる。いわば、愛犬との楽しいスポーツなのだ。
「沖に出て愛犬に助けてもらうのを待つのです。そのとき、こちらへ一生懸命になって泳いでやってくる。そしていよいよ近づいてきて、濡れた鼻で私の頬にキスをしてくれる。これほど愛犬が頼もしく思え、感動できる瞬間ってありませんよ」
と一人のウォーター・トライアル愛好家。
 このアクティビティでは、犬がモノをくわえて運べるという技をこなせることが何よりも大事だ。時にはボートを牽引したりすることもある。それから溺れる人のために、浮き輪を持って沖に出る、という技能も要求される。
「水場から岸に向かって何かをくわえて持ってくる、というのはそれほどニューファンドランドにとって難しいことではないのですがね。しかし水場に向かって何かを持っていく、というのはなかなか理解しがたいみたいです」


 ニューファンドランドはのんびりとした犬ではあるが、その強みは水好きに加えて、精神の強さ。怖がらない、めげない。救助犬として必要な資質をメンタル面でも備えている。フランスの海岸では実際にコースト・ガードとして働いているニューファンドランドもいるのだ。
 さてニューファンドランドのほかにも、もう一種、この競技に参加できる犬がいる。それがレオンベルガーという犬種。やはり大型犬。ニューファンドランドと同様、おおらかでやさしい性格が特徴だ。レオンベルガーは犬種としてニューファンドランドがもとになっているだけに、水への情熱はやはり生まれつきのもの。子犬の時から水への興味は津々。ある飼い主いわく、
「水のみのボールの中にすら、入ろうとする子もいるんですからね!」

 
   

巨大な体がボートからひらりと宙に浮く。
救助に出向かうニューファンドランド


ボートを岸まで牽引するニューファンドランド。まずロープを船までくわえて運ぶという技ができなければ務まらない