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ホーム > WOOFWOOFマガジン > とぶ(tobu) > From Europe オランダ人の小型黒犬へのノスタルジー



動物ライター、翻訳家、生物学修士。学習院大学卒業後、オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物学科を卒業。現在スウェーデンで犬、猫、馬たちと暮らしながら、動物行動学やトレーニングについて日本やヨーロッパで執筆を続ける
 
 

 
 その昔、オランダの宮殿ではスパニエル風のかつ真っ黒の小型犬がよく飼われていたそうだ。それはそれは、チューリップのように明るくて素敵な犬。淑女たちのドレスの周りでちょろちょろする姿は、まるで泳ぐ黒い金魚のよう。艶々の黒毛衣をたなびかせる美しい愛玩犬だった。しかしドッグショーがイギリスで考案された1800年代に入ってからは、イギリス産の愛玩犬種がモードになり、彼らに押されすっかりオランダのサロンから消えてしまった。
しかし、この黒いチューリップ・ドッグは完全に人々の記憶からは消し去られることはなかった。というのも、当時の貴族の肖像画にその姿をたびたび見出すことができたからだ。すました貴婦人の足元にいるスパニエル風の黒い小型犬。
「かつてサロンにはこんな素敵な小型犬がいたんだ、今もこんな犬がいたらどんなに楽しいだろう!」
そんなオランダ人のノスタルジックな思いによって、70年代にはいり犬種復興作業が始まった。そしてできあがったのが、このマルキーシェという肖像画通りの可憐な黒い犬。ちなみにマルキーシェというのは籠を意味する。淑女たちは籠に犬をいれて、持ち歩いていたからだそうだ。たという話もある。

 オランダを訪れたのは街路樹が黄色に染められたある秋の日。ドイツとの国境近くに位置するフローニンゲンの公園を歩いていたら、小型の黒いスパニエル風の犬をたくさん連れているご婦人に出くわした。あまりにも珍しいのでなんという犬ですかと聞くと、これがかのマルキーシェであった。彼女の名前はギアさん。ギアさんはマルキーシェを育てるブリーダーでもあった。そして一度絶滅した犬をどういう風に復活させたのか、彼女から面白い話を聞きだすことができたのだ。

 ギアさんによると、田舎などにいくと、農家の軒先などにマルキーシェ然とした黒っぽいスパニエル犬は雑犬としてまだ残っていたりすることもあるという。そんな犬をかき集めて、犬種作成に着手したのだそうだ。
「私が飼った初めてのマルキーシェのヴァゼルもそうだったんですよ」
6年前のある雨の朝、犬の施設を訪れた彼女は檻の中からギアさんを見上げる一匹の黒いオス犬と目が合った。
「ただのミックス犬だ、と係員の人は言うのですが、なんだかとても洗練された感じがしてね。『この子、こんなところにいちゃいけない犬だわ』って直感的に思いました。」
ヴァゼルを引き取ったギアさん、もちろん当時彼女はマルキーシェのことなど何も知らなかった。その後、いっしょにドッグ・スクールに参加したときのこと。ある女性が彼女を引きとめた。
「まぁ、あなたの犬、これ、マルキーシェじゃない!」
彼女の勧めでギアさんは当時すでに設立されていたマルキーシェ愛好会の催すクラブ・ショーにヴァゼルを連れて訪れた。そして審査員にそのミックス犬だとばかり思っていた愛犬を見てもらった。と、やはりヴァゼルは紛れもなくマルキーシェであり、彼はギアさんにとって思いがけない「掘り出し物」となったのだ。
不思議な縁がきっかけとなり、ギアさんは今やその情熱を全てマルキーシェに注いでいる。
「大きさも手ごろで、可愛らしく、性格は元気で明るく活発。でも室内に入るとコトンと眠り、外と内のモードを上手に使い分ける。家庭犬として理想的」
マルキーシェはギアさんの誇り、オランダ誇り、そして宮殿時代のノスタルジーなのである。
さてニューファンドランドのほかにも、もう一種、この競技に参加できる犬がいる。それがレオンベルガーという犬種。やはり大型犬。ニューファンドランドと同様、おおらかでやさしい性格が特徴だ。レオンベルガーは犬種としてニューファンドランドがもとになっているだけに、水への情熱はやはり生まれつきのもの。子犬の時から水への興味は津々。ある飼い主いわく、
「水のみのボールの中にすら、入ろうとする子もいるんですからね!」