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ホーム > WOOFWOOFマガジン > とぶ(tobu) > From Europe 北欧の雪の恵み愛犬と森歩きで春を待つ


北欧の冬は長い。北欧中部のスウェーデンでは、ノルウェーを隔てて流れているメキシコ湾暖流の加減で、積雪にばらつきがある。

雪が積もればもうけもの。夏の白夜とは対照的に、冬は暗く日照時間は約5時間。「蛍の光」の歌詞のごとく、窓の雪は一気に世を明るくしてくれる。物理的にだけではなく、気持ちまでも、だ。枯れ木、泥まみれの落ち葉、黒っぽいアスファルト、どんよりしたグレーの景色がすべて真っ白な雪に覆い尽くされる。人々は長くて暗い冬にうんざりしている。ああ、待ちに待った光! だからこそ、愛犬と表に出て遊びたいと思う。

雪が降ると、犬仲間同士、早速連絡を取り合う。数分後には全員が車で除雪車が通ったばかりの森林道の一角に集まり、はやる犬を車から降ろす。

皆が皆、申し合わせたようにリュックサックを背負っている。狩猟家が持つのと同じタイプのもので、背負う鉄骨の部分が、折りたたみ式のイスになっている。スウェーデンは郊外に行けば森だらけ。狩猟用リュックサックは森歩きが大好きなこの国の愛犬家ならではの定番だ。森を散歩したあとはリュックサックの椅子に座る。愛犬を自由に走らせておきながら、アウトドアでお茶をしようという考えだ。雪が降れば、うれしさは増す。暖かい焚き火のお楽しみが増えるから。

 

「斧持ってきた?」
「焚き火用薪なら持ってきたわよ。それより、誰かマッチ持ってきているでしょうねぇ」
「寒いから犬にフリース着せようかな」
「今日はホットチョコがあるわよ。飲みたい人言ってね」

がやがやしているうちに、誰が何を持つか役割分担が決まり、いざ、出発。

犬たちは人間たちの行列について行く。彼らは、どんなに歩いても雪の中ならへこたれることはない。体温が上がれば、雪をむしゃむしゃと食べ、自分で温度を調節する。

一頭が、雪の中に野ネズミの巣を見つければ、「我も、我も!」と他の犬が続く。飼い主ばかりではなく、犬たちも、雪の中で少しだけはしゃいだ気分になるようだ。

クライマックスは、散歩の最後におこなう焚き火のひと時。人間たちは適当な枝を折り、先端をナイフで尖らせる。枝にソーセージをつきさして火にくべると、犬たちがワサワサと寄ってくる。

きっと誰かがくれるよ。
きっと誰かが地面に落とすよ。

そんな期待を寄せながら、彼らは焚き火のまわりを陣取る。

「これだけ動いたんだから、今日は散歩する必要がないわね」

と誰かが笑う。雪のない冬の日は、かじかんだ身体を揺らしながら、速足で済ませてしまう散歩も、雪が降れば得した気分になる。

雪道を走れば、犬の体力も相当に消耗し、運動不足の解消にもなる。家にたどり着くころには、もうへとへと。暖かい暖炉のそばで、あとはコンコンと眠りこける。雪が溶ければ春が来る。犬との雪遊びがあれば、長い北欧の冬もなんとかやり過ごせるのだ。

 

動物ライター、翻訳家、生物学修士。学習院大学卒業後、オレゴン州立大学野生動物学科を経て、スウェーデン農業大学野生動物学科を卒業。現在スウェーデンで犬、猫、馬たちと暮らしながら、動物行動学やトレーニングについて日本やヨーロッパで執筆を続ける



撮焚き火で即席バーベキュー。
犬たちが物欲しげに集まってきた

 



雪の中で遊んだ日は、散歩いらず。
犬は暖炉の前でたっぷり休息をとる。